石戸谷結子(音楽評論家)
華やかなMETライブビューイングのラインナップのなかでも、ひときわ目を引く豪華キャストが、《ナブッコ》だ。なにしろ、MET名誉音楽監督であるレヴァインが指揮し、ドミンゴが主役として登場するからだ。二人はこれまで40年以上にわたって共演してきた息の合ったコンビであり、マエストロ同士の夢の顔合わせだ。ドミンゴは今年76歳をむかえたが、新分野であるバリトンの役柄に積極的に挑み、次々とレパートリーを拡大しており、パワーは全く衰えていない。ナブッコは古代バビロニアの独裁者から狂気に陥り、改心して偉大な王になるという難しい役どころだが、ドミンゴならではの重厚な役作りと深い歌唱に、開幕前から期待が集まった。