小林伸太郎(音楽ライター/NY在住)
メトロポリタン・オペラがリンカーンセンターにある現在の劇場に移ってから、今年はちょうど50年目となる。METはこの記念すべき2016-17シーズンを 、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》新演出上演で9月26日に開幕した。
決して満たされることのない愛を描いた、ワーグナーの最もロマンティックで濃密な作品である《トリスタンとイゾルデ》。後に「トリスタン和声」と呼ばれる独特の和声など、音楽史上、革命的な作品として知られるが、満たされない愛そのままにうねる独特の響きは、その世界に取り憑かれたら最後、抗い難い魅力で聴くものを虜にしてしまう。上演に5時間以上かかり、オーケストラ、歌手に対する要求がとりわけ厳しい大作でもある。そんなエピックを50周年記念の初日に持ってきたことに、METの過去に対する誇りと、未来への意気込みが感じられる。