2016年2月14日日曜日

「オペラは生涯のもの」ドナルド・キーン先生インタビュー

 今シーズンで10周年を迎えたMETライブビューイング。大のオペラファンでいらっしゃる、日本文学研究者のドナルド・キーン先生に、オペラやMETの魅力についてお伺いしました。


●キーン先生とオペラの出会い
 キーン先生が初めてオペラを観たのは15歳の時。野外劇場での《カルメン》でした。
 「これは最初のオペラとして見事でした。話はおもしろいし、音楽も素晴らしい。どんな映画よりも私にとって劇的でした。それは新しい、私が知っていた芝居とはちがうものでした。だからもっともっと見たいと思いました。」と当時のことを振り返ります。
 16歳の時には、初めてMETで《オルフェオとエウリディーチェ》を観て、その舞台の美しさに感動。18歳にはMETの会員になり、それ以来70年以上にわたり、ニューヨークの現地公演やMETライブビューイングで、メトロポリタン・オペラを楽しんでいます。


●オペラの魅力とは
キーン先生は、オペラの魅力は人間の声だと語ります。
 「私はピアノやヴァイオリンあらゆる音楽が好きですが、正直、一流の演奏家の音は区別できない。どちらもとても上手できれいだと思いますが、誰の音かはわかりません。しかし、歌手はわかる。これは誰それの声だ、と。それがオペラの特別な良さ。人間はいろいろ変化しますが、大体において死ぬまで同じ声なのです。」


●ライブビューイングで楽しむMET

 4年前にキーン先生が日本永住を決意された際、「METと別れることが辛い」と感じたそうです。現在は東京で暮らし、METライブビューイングでオペラを楽しまれています。
 初めて日本に留学したとき、テレビがなく、ラジオで日曜にオペラを聴いていました。音楽の途中に説明が入っているもので、それが嫌いでした。やっとテレビの時代が来ましたが、今は(オペラの)テレビ放送がなくなったり、もしくは夜中の放送。映画館でオペラが観られることを私は誰よりも喜びました。日本に永住すると決心し、日本の生活はとても好きです。でもオペラがなかったら、何か欠けているという感じです。だから映画館に毎週来ています」と笑顔でお話されました。
 ライブビューイングの良さについては、オペラの場合はよっぽどいい席でなければ、歌手の表情まで分かりません。しかし映画館で見ると声は非常によく聞こえるし、そして人間の表情が良く見える。怖いシーンでは合唱団の一人ひとりもそういった表情になります。今の歌手たちはみんな演技が上手です。」


●《トゥーランドット》は初心者にも観てほしい
 キーン先生の今シーズンの一押し演目は、《トゥーランドット》。「一番好きなオペラですし、ニーナ・ステンメの声でぜひ聴きたい。装置も豪華で、オリンピックのフィギュアスケートで覚えられた曲もあります。王子がなぜ人殺しの姫を好きになるのか、お話は分からないところもありますが(笑)。今シーズンの《エレクトラ》にも登場するニーナ・ステンメに注目されていました。

 オペラ初心者はどうすればオペラを楽しめるか伺うと、オペラは料理と似ています。最初にオリーブを食べると酸っぱいが、だんだん慣れて、終いには、なければならないものになる」とアドバイス。

 キーン先生の考えるオペラとは?
 「オペラは生涯のもの。何回同じオペラを観ても、毎回新しいものを発見する。それは本物の芸術である証だと思う。」

《トゥーランドット》写真(C) Marty Sohl/Metropolitan Opera