2015年11月19日木曜日

《タンホイザー》現地評のご紹介

レヴァインは、オーケストラから雄大で深く豊かな演奏を引き出した。METは本作に現代屈指のキャスト陣を集結させている。

主役のタンホイザーを演じるヨハン・ボータは高く響き渡る声で、驚くほど軽々とこの難役を歌い上げた。彼の歌声は、若者の憧れの心を表現しつつも、タンホイザーの魂が危機を迎える場面では、その絶望と戸惑いをひしひしと感じさせた。バスのギュンター・グロイスベックは、テューリンゲンの領主でエリーザベトの叔父であるヘルマンを、力強く威厳に満ちた歌声で演じた。さらに本プロダクションでは、エリーザベトを愛する騎士、ヴォルフラム役として、スウェーデンの名バリトン、ペーター・マッテイも登場する。 2013年のMET新演出《パルシファル》のアンフォルタス役で圧倒的な演唱を見せつけたマッテイは、高潔なヴォルフラム役でも同様に、迫真の演唱を披露した。彼の歌声は、無理のない自然な力強さと、甘美な響きを共に兼ね備えていた。これほどまでに優雅な〈夕星の歌〉を聴けるとは、想像だにしない。
 ―ニューヨーク・タイムズ



ヴェーヌス役のメゾソプラノ、ミシェル・デ・ヤングは官能的で艶のある力強い歌声で歌いあげ、彼女自身まさにその役を楽しんでいるかのようだった。ヴェーヌスベルクの場面では、彼女とボータの張り詰めた集中力が相互に作用し合い、彼女の役を掌握する力は、ボータに匹敵するものだった。

そして舞台上で最もパワフルな歌声を聴かせてくれたのは、エリーザベトを演じたソプラノ、エヴァ=マリア・ヴェストブルックだ。アリア〈崇高な殿堂よ〉のオープニングではGの音が、オペラハウスいっぱいに響き渡った。彼女の歌声は、メゾソプラノのような豊潤さと、ソプラノの輝かしい響きを合わせ持ち、彼女の歌声という楽器は、オーケストラピットを含めたどの楽器よりも、夜通し存在感を放っていた。
 ―ニューヨーク・クラシカル・レビュー

 写真(C) Marty Sohl/Metropolitan Opera