2015年10月17日土曜日

鳴りやまない喝采!《イル・トロヴァトーレ》初日現地レポート

小林伸太郎(音楽ライター/NY在住)

ああ、ヴェルディってやっぱり凄い・・・。レオノーラ登場のアリア、〈穏やかな夜〉が始まった時、思わず深呼吸をしてしまった。恋人、マンリーコに出会った時のことを語るレオノーラの静かに燃える情熱が、ヴェルディのどこまでもレガートな旋律に乗って、耳を傾ける我々を遠い彼方へと運ぶ。そして思った。アンナ・ネトレプコって、やっぱり特別なアーティストなのだと。

それにしても、今回METでレオノーラを初めて歌ったネトレプコは素晴らしかった。レオノーラという役は、アリアから大アンサンブルまで、美しくも技術的に非常に過酷な旋律が、次から次へと与えられている。そんな過酷さを真っ正面から受け止めた彼女の歌唱は、長いレガートからスタッカートなど、ヴェルディの旋律に込められた祈りを余すことなく伝えてくれた。

さらにネトレプコが素晴らしいのは、恋人役であれ、敵役であれ、相手役を体全身で受け入れる真摯さだ。今回も、切々と思いを伝えるアリアを歌うマンリーコ(ヨンフン・リー)に寄り添う姿など、一言も言葉を発さない時でもレオノーラの熱い思いが、狂おしいまでに伝わってきた。

 今回は、共演者にも恵まれた。ベテラン、ドローラ・ザジックによる迫力のアズチェーナを再び聴くことができたのは大きな喜びだった。METのスピント系テノールのスターとして急速に頭角を現してきたヨンフン・リーの誠実な歌唱、そしてフェルランドを歌ったステファン・コツァンの強いバスの響きも、観客に大いにアピールした。しかし、この日誰よりも大きな喝采を浴びたのは、ルーナ伯爵を歌ったディミトリ・ホヴォロストフスキーだった。

この夏、キャリアの絶頂にあるホヴォロストフスキーが脳腫瘍の罹患を告白したときは、大きな衝撃が世界を突き抜けると同時に、力強く病と戦う彼の決意に多くの賞賛が集まった。初日の舞台に彼が登場すると、果たして劇場は文字通り、割れるような喝采に包まれた。鳴り止まない喝采に、結局彼は役から離れて感謝の意を表する事態となった。それはごく短い会釈だったけれども、彼も大きく勇気付けられたに違いない。登場から感動的なカーテンコールまで、いつもながらの、いやもしかしたらいつも以上の颯爽とした彼の演唱に、場内の観客はさらに大きな勇気をもらった。

カーテンコールでは、ネトレプコは涙ぐんでいたように見えた。思えばネトレプコのMETデビューは、ホヴォロストフスキーと共演した2002年の《戦争と平和》の伝説的な舞台だった。以来、ロシアが生んだ2大スターとして再び共演した彼らの思いは、我々には想像できない万感の思いであったことだろう。彼らの素晴らしい舞台をライブビューイングで接することができる幸せを噛みしめたい。

写真(C) Marty Sohl/Metropolitan Opera、(C) Ken Howard/Metropolitan Opera