2015年5月8日金曜日

名作映画に名オペラあり~『ゴッドファーザー』と『アンタッチャブル』~

男女の愛憎を生々しく描いたイタリア・オペラの金字塔《カヴァレリア・ルスティカーナ》と《道化師》。激しく美しい旋律に満ちたこの二つのオペラの楽曲は、これまで数多くの映画やCMなどで使用されて来ました。

そのなかでも最も記憶に残るのが、映画史に輝く名作『ゴッドファーザー Part III(1990) と『アンタッチャブル』(1987)でしょう。 

Blu-ray「ゴッドファーザー PART III
 <デジタル・リマスター版>」
発売元:パラマウント・ジャパン
価格:2,381円+税 発売中
あの『ゴッドファーザー』三部作を締めくくるパート3のクライマックス、アル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネは、シチリアで息子がオペラ歌手デビューを果たした公演《カヴァレリア・ルスティカーナ》を観劇した直後、オペラハウスの前で暗殺者の銃撃を受けます。しかし、無情にもその弾丸は、彼をかすめ、最愛の娘に命中。声にならない絶望の叫びを上げるマイケルの悲痛な姿に重なって流れてくる音楽が、《カヴァレリア・ルスティカーナ》のあの〈間奏曲〉です。マフィア社会のドンとして生きることを選び、多くの大切なものを失ってきたマイケル。哀愁に満ちた、あまりにも美しいメロディのなか、マイケルは人生で愛し、失った3人の女性たちとそれぞれにダンスを踊ったシーンを走馬灯のように想い出します。(愛娘のメアリー、若い頃シチリアで逃亡中に結婚した美しい地元の娘、そして、最愛の妻だったケイ)そして時が流れ、年老いたマイケル・コルレオーネがシチリアの青い空のもと、椅子に座りながら息を引き取るラストシーンへ。『ゴッドファーザー』サーガを締めくくる心揺さぶる感動的な音楽は、あのニーノ・ロータのテーマ曲と同じくらい、深く人々の記憶に刻みこまれました。

Blu-ray「アンタッチャブル 
スペシャル・コレクターズ・エディション」
発売元:パラマウント・ジャパン
価格:2,381円+税 発売中
テノールの名アリア《道化師》の〈衣装をつけろ〉が登場する名作映画が、アル・カポネと捜査官エリオット・ネスの闘いを描いた『アンタッチャブル』です。妻に裏切られた道化師が化粧台で白粉をぬりながら歌う場面:「笑え、道化師! 苦しみも哀しみも作り笑いに変えるんだ!」。歌劇場でそのアリアを観劇しながら涙を流しているのが名優ロバート・デ・ニーロが怪演するアル・カポネです。バットで人を殴り殺すほど残忍なカポネの、不気味なくらい感受性豊かな一面。そのアリアが流れるなか同時並行で描かれるのが、カポネの送り込んだ暗殺者に銃撃されるネスの部下、高潔な老警官のマローン(ショーン・コネリー)の壮絶な最期です。無数の銃弾を浴び、血まみれになりながら、マローンは床を這い、ネスに渡さなければならない品物まで何とか辿り着こうとしますが・・・。歌劇場のカポネの耳元に暗殺完了の知らせがもたらされ、彼の泣いていた顔に不気味な笑いが混じります。道化姿で涙を流し歌い上げる道化師と、カポネの泣き笑いが交錯する印象的な場面。人々を惹きつける陽気さと、誰もが恐れる凶暴さが同居する稀代のマフィア、アル・カポネという怪物との闘いをドラマティックに彩った名曲でした。

愛する歓び、愛を失った悲しみ、絶望と後悔、引き裂かれる感情・・・オペラのなかの原曲を体感して、もう一度あの名作映画を観ると、きっと新たな感動に出会えるかもしれません。