2015年2月27日金曜日

最高のホフマン役!豪華絢爛な舞台!《ホフマン物語》みどころレポート

                                   池原麻里子(ジャーナリスト)

今回、上演される《ホフマン物語》は、ブロードウェイの名演出家バートレット・シャーが2009年に新演出したものだ。初演時のキャストはほぼ全員入れ換わり、全体の印象も一変した。同じ作品でも演出次第で変わり、また同じ演出でも歌手が替われば全く新しい印象になるから、何度も楽しめるのがオペラの醍醐味。そして、今回のキャストが大変に素晴らしい!前回、ご覧になった方にも是非是非、新キャストでご覧になっていただきたい。

酒場で呑んだくれた詩人ホフマンが、理想の女性との恋に破れ果てた過去を回想し、詩人として成長するという物語。注目すべきは、主人公役ヴィットーリオ・グリゴーロ。私が観たことがあるホフマンの中でも最高で、彼のはまり役だと断言できる。グリゴーロは甘いマスクが魅力だが、バチカンのシスティーナ礼拝堂聖歌隊にソリストとして入隊し、13歳でパヴァロッティと《トスカ》に出演した実力派で、輝かしい高音が素晴らしい。《ラ・ボエーム》でMETデビューしたが、世界の名歌劇場で引っ張りだこの人気急上昇中のテノールだ。グリゴーロはとってもエネルギッシュで、情熱的。ホフマン役でもその人柄がにじみ出てくる。ほぼ出ずっぱりで歌い続けた後に、有名な〈クラインザックの伝説〉を最後に踊りながら歌う元気さにはただ驚嘆するばかり!


本作品はホフマン以外に、女声陣も楽しめるのが魅力で、グリゴーロ同様に目が離せないのが、ホフマンのミューズと親友ニクラウス役を務めるケイト・リンジー。テクニック抜群のメゾ・ソプラノだが、そのすらりとしたエレガントな容姿はこの二役にピッタリ。なめらかな声とカメラがとらえるリアクション・ショットも含めた彼女の表情と細かい演技に感心してしまう。

そして、コロラトゥーラ ・ソプラノのはまり役の自動人形オランピアを歌う新進のエリン・モーリーに注目したい。超絶技巧の名アリア〈生垣には、小鳥たち〉で、とてもコミカルな演技をしつつ、最後に何とAフラットという高音まで披露してくれる!

ホフマンが求める理想の女性の1人として最初と最後に登場する歌姫ステラと、第三幕歌うと死んでしまう病気のアントニア役のヒブラ・ゲルツマーヴァは、とても華のある美貌のソプラノだ。その澄んだ美声と高音が素晴らしいし、演技力がある。

そして高級娼婦ジュリエッタ役のクリスティン・ライスはとてもセクシー。官能的な〈ホフマンの舟歌〉は、イタリア映画「ライフ・イズ・ビューティフル」で印象的に使用されたこともあり、きっと日本でもおなじみの曲だと思う。

ホフマンを翻弄する悪魔の化身4人の悪役を演ずるのが、世界的バリトンのトーマス・ハンプソン。役柄を掘り下げる知的なアプローチには定評があるが、悪人ぶりを楽しんでいる。

《ホフマン物語》はドイツ・ロマン派詩人E.T.A.ホフマンの小説が原作だが、パリ在住のユダヤ系ドイツ人オッフェンバックはオペレッタではなく、オペラ作曲家として認められることを狙って本作品を作曲。しかし、未完で他界 したため、この作品に魅了された人たちの手で完成された。バートレット・シャーの演出は、オッフェンバック同様の異邦人としてプラハに在住したユダヤ系ドイツ人のカフカ、そしてフェリーニの映画にインスピレーションを得ている。歌だけでなく、踊りも楽しめるブロードウェイ・ショーのような豪華絢爛な演出は、奇想天外で幻想的なホフマンの世界に私たちを誘ってくれる。
 (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera