2015年2月13日金曜日

極上のエンターテインメント!《メリー・ウィドウ》のみどころ

                                   奥田佳道(音楽評論家)

 惜しげもなく湧き出る美しいメロディに、ダンサブルなナンバー。妖艶なウィンナ・ワルツも舞う。心ときめく大人の恋。誘惑の香りが漂えば、ちょっとした駆け引きも観る者をその気にさせる。

 極上のエンターテインメントならお任せあれのMETが、ウィンナ・オペレッタの名花、フランツ・レハール(18701948)の《メリー・ウィドウ》を新演出で上演した。すべて英語による上演だ。振付も任された演出家は誰あろうスーザン・ストローマン女史。「クレージー・フォー・ユー」に「コンタクト」「プロデューサーズ」でトニー賞に輝いた、あのストローマンである。

 1905年にアン・デア・ウィーン劇場で初演されたこのオペレッタ。舞台はパリ。架空の小国ポンテヴェドロ公使館、それにキャバレー・マキシム。若くして巨万の富を相続した美貌の未亡人ハンナと、行きつけの店マキシムの踊り子たちも大好きな外交官ダニロによる恋のさや当て物語である。二人は愛しあっているのに、意地を張ってばかり。そんなロマンスに、ツェータ男爵の若い妻ヴァランシェンヌとパリの伊達男カミーユの浮気騒動も添えられた。

 名旋律の宝庫である。公務よりもマキシムに夢中のダニロ登場のアリア〈僕の故郷はどこ〉。ダニロとの愛を密かに確信したハンナによる、妖精と若い狩人の恋物語〈ヴィリアの歌〉。勢揃いした男声陣が、女の扱いは全く難しいな、とコミカルに歌う〈女・女・女のマーチ〉。マキシムの踊り子たちの弾けっぷりも楽しいフレンチ・カンカン。それに夢見るようなデュエット〈唇は黙しても〉(〈メリー・ウィドウ・ワルツ〉)。東欧のノスタルジックな調べを受け継ぐレハールの音楽は、親しみやすく、どこかエキゾティック、そして味わい深い。

 キャスティングも万全だ。ハンナにルネ・フレミング!男たちをその気にさせる、あでやかなハンナで自分の魅力もよく分かっている。ダニロにネイサン・ガン。ハンナに振り回される場面がいい。ツェータ男爵に70歳を迎えた大御所トーマス・アレン。男の悲哀も小気味いいダンスのステップも最高だ。そしてもう一人、ミュージカルの顔がMETを彩る。カミーユといい仲になり、幕切れまでドラマの鍵を握る人妻役ヴァランシェンヌを、ブロードウェイのスター、ケリー・オハラに託したのだ。舞台を自在に泳ぐ歌役者オハラのMETデビューに喝采を。

 大人が行き交うベル・エポック期のパリに想いを寄せつつ、洒脱なダンスを愛してやまないストローマンの仕事も冴える。愛すべき踊り子6人にほろ酔い気分のヴァランシェンヌが絡む、マキシムの華やぎはもちろん、そのマキシムの場面を導く「メリー・ウィドウ・メドレー」が素晴らしい。いつもの間奏曲にあらず! これぞ舞台の喜び。魔法のような転換にもご注目を。

 出演者のキャラクターを映し出すカーテンコールまで、ストローマンのプロの仕事が続く。魅せ場続きの《メリー・ウィドウ》が、さあスクリーンを舞う。

                                                  (C) Ken Howard/Metropolitan Opera