2014年4月1日火曜日

ゲーテ青春の恋 『若きウェルテルの悩み』

マスネ作曲のオペラ《ウェルテル》の原作はゲーテの有名な小説『若きウェルテルの悩み』。1774年に刊行され、18世紀のヨーロッパを席巻し、ゲーテの名を世に知らしめたベストセラー小説です。

26歳のゲーテ(1776年)
自由奔放な青年ウェルテルが、ある日美しい娘シャルロッテに恋するも、彼女には父親が決めた婚約者がいると知り、叶わぬ想いに絶望して自殺するという物語。作品は2部で構成されており、主に主人公ウェルテルが友人ヴィルヘルムに宛てた数十通の書簡によって構成されています。この物語は、ゲーテ本人が経験した恋愛と、ピストル自殺した友人のカール・イェルザレムの実話に基づいた小説として知られています。

大学卒業後、ドイツのヴェッツラーで法律の勉強をしていたゲーテは、舞踏会でシャルロッテのモデルとなるシャルロッテ・ブッフと出逢い、恋に落ちます。地元の役人の大家族の2番目の娘として、妹と弟の面倒をよく見た家庭的なシャルロッテにゲーテは夢中になり、彼女の家を頻繁に訪れ、詩や手紙を何度も送ります。ゲーテは家の周りの人や弟妹からも慕われ、シャルロッテもそんな彼に好意を持ちますが、既に許嫁のいたシャルロッテは、ゲーテの熱烈な恋に誘惑されることはありませんでした。ゲーテは叶わぬ惨めな恋に耐えられなくなり、別れも告げず、突然ヴェッツラーを去ってしまします。

ヒロインのモデルとなった
シャルロッテ・ブッフ
故郷フランクフルトに戻った後も、シャルロッテのことが忘れられず、ゲーテは彼女の結婚の日が近づくにつれて悩み、一時は自殺すら考えるようになります。そんな中、ゲーテのもとにヴェッツラーでの友人・イェルザレムが人妻に失恋してピストル自殺をしたという報せが届きます。この時、ゲーテは自分の失恋体験と友人の自殺を組み合わせた小説の構想を思いつき、わずか1か月あまりで小説『若きウェルテルの悩み』を書き上げました。ゲーテ、弱冠25歳の時の作品でした。

この小説は瞬く間にヨーロッパ中で大流行となり、小説に出てくるウェルテルが愛用した黄色いチョッキと青いフロックコートや、シャルロッテの服装を真似る若者たちが続出。小説のモデルとなった人物が詮索され、ゲーテの友人・イェルザレムの墓は愛読者の巡礼地となったそうです。更には、ウェルテルを真似て自殺する者まで現れ、これが原因でいくつかの国ではこの本は発禁処分となりました。この社会現象から、社会学者フィリップスが命名した『ウェルテル効果』(マスメディアの自殺報道に影響されて自殺が増える事象)という言葉の由来にもなっています。

『若きウェルテルの悩み』初版扉
愛読者の一人だったナポレオンは、エジプト遠征の時にポケットに忍ばせ、7度読み返したという逸話もあります。ちなみに、「お口の恋人 ロッテ」でお馴染みの製菓メーカ、ロッテの社名は、“世界中の人々の記憶に残る永遠の恋人”である小説のヒロイン“シャルロッテ”に由来するそうです。

ゲーテの小説から約100年後、フランスで人気作曲家だったマスネは、その小説を読んで、「熱狂と恍惚に満ちた情熱に、思わず涙を流さずにはいられなかった」と語り、「素晴らしいオペラになる」と確信し、オペラ化に着手。《マノン》や《タイス》と並ぶ、彼の代表作となりました。

時代を超えて人類が読み継いできた、誰もが共感する恋の情熱と痛みを描いた稀有な名作『若きウェルテルの悩み』。オペラを鑑賞される際に、合わせて読んでみると、ゲーテ自身や主人公ウェルテル、そして、観客ひとりひとりの恋の思い出が重ね合わさり、より深い感動に出会えるかもしれません。ゲーテの原作では、最期にシャルロットが駆けつけることなく恋の悲劇は終わりを迎えます。今回の新演出のプロダクションでは、結末がどのように描かれているか・・・原作とオペラの舞台の違いも愉しみのひとつです。