2013年1月10日木曜日

絢爛豪華な舞台とスター歌手陣による夢の舞台!《アイーダ》のみどころ

石戸谷結子(音楽ジャーナリスト)


「実際のエジプトよりもエジプトらしい!」といわれるのが、メトロポリタン歌劇場が誇る超壮大なスケールを持つ《アイーダ》の舞台だ。いまを去ること20数年前、初めてMETに行き、観たのが《アイーダ》だった。ラダメス役はパヴァロッティ。もちろん彼の輝かしい声には驚愕したけれど、それよりもびっくりしたのが演出だった。あの広い空間をいっぱいに使った巨大な装置、黄金をふんだんに使った絢爛豪華な舞台、そして衣装の美しい色彩にも完全にノックアウトされた。華やかなトラッペットのファンファーレに乗り、本物の馬が何頭も登場し、凱旋の行進が延々と限りなく続く。さらに4幕では、神殿の場がするすると上にあがり、奈落の下から巨大な土牢が出現したのを目にして、開いた口がほんとにふさがらなかった!

 この演出は1988年以来、METの看板舞台として使われ、パヴァロッティを始め、ドミンゴからヨハン・ボータまで輝かしい声のテノールがラダメスを歌ってきた。そして今回はなんとロベルト・アラーニャがラダメスを歌うのだ。アラーニャはMETと相性が良く、ここ1~2年だけでも《ロメオとジュリエット》《カルメン》《ドン・カルロ》…と話題の舞台に主演し、いずれも大成功を収めている。アラーニャのもともとの声質はリリコ(注1)だが、近年はよりヒロイックな役にも挑戦し、ラダメスも得意役の一つ。大音量ではないが、明るく輝かしい高音と繊細で抒情的な表現力が彼の持ち味だ。闘いに勝利した力強い英雄という面ばかりでなく、奴隷の娘(じつは敵方の王女だが)であるアイーダを愛してしまった苦悩する男という新鮮なラダメス像を、必ずや見せてくれるに違いない。

 今回の舞台でのもう一つの聴きものは、アイーダ役でMETデビューを果たしたウクライナ出身のソプラノ、リュドミラ・モナスティルスカだ。2011年に英国ロイヤル・オペラで《アイーダ》のアイーダ役と《マクベス》のマクベス夫人でどちらも代役でデビューしてセンセーショナルな成功を収めた話題の新星だ。《マクベス》は映像が出ており、凄味のあるドラマチックな声質と華やかなアジリタ(注2)の妙技を併せ持った希有なソプラノとしての魅力を存分に披露している。2013年にはスカラ座でドミンゴと共演する《ナブッコ》などが予定されており、いま世界で最も注目されているソプラノの一人だ。
 
 また厚みのあるベルベットのような声質を持つメゾ・ソプラノ、オルガ・ボロディナのアムネリスももちろん聴きもの。目の醒めるほど華麗な舞台と豪華な歌手陣が繰り広げる夢の舞台。それがMETの《アイーダ》だ。


        

(注1)リリコ・・・テノールの声質のひとつ。抒情的な歌唱に適したテノールで、《ラ・ボエーム》のロドルフォ役など役柄も多い。
(注2)アジリタ・・・軽快、機敏を意味するイタリア語。オペラでは細かい音符で書かれた速いパッセージを指す。

 写真(C)  Marty Sohl/Metropolitan Opera  
  アラーニャ写真(C) Ken Howard/Metropolitan Opera